『ユーラシアの双子』
富山から船でロシアへ。シベリア鉄道でモスクワへ。さらに鉄道の旅を続けてスペインへ。ユーラシア大陸横断鉄道の旅。それだけでも羨ましいってのに、この作家さんは取材を口実に列車に乗って小説まで書いちゃってさあ……なんて思ってました(笑)。実は単行本が出た時から気になっていて、文庫になるまでずっと待ってた。文庫派の私です。たまたま本屋さんでみつけて、移動中に少しずつ読んで、ようやく読了。長編だけどテンポが良くて、さくさく読み進めるんですけどね。なにせ移動する機会が少ない暮らしです。
さて、本書は不遇な中年男が主人公。奥さんとは離婚し、長女には死別。会社の早期退職勧告を受けて一人暮らし。退職金と失業手当で生活しています。まあお金はあるんだよね。やりたい仕事がなくてさ……という感じ。そんななか、ハローワークでシベリア鉄道の旅を思いついてしまう。それもいいな、と旅に出た。
ところが、ロシアに着いてすぐに、自分の日程の少し前を自殺志願者の若い日本人女性が行動していると知る。地の果てで死ぬために旅をしているという。その様子が死別した長女と重なり、主人公は追いかけていきます。1ヶ月近くの列車の旅は、紀行文としては退屈だけど、幻影のような美女を追うという要素のおかげで、先へ先へと読み進みたくなる。とくに、主人公がユーラシアへ旅立つ理由のひとつや、なぜ彼女を助けたいか。本人も気づかなかった真実が、すこしずつ明かされていく展開が面白い。オッサン版の深夜特急みたいな感じです。映画にするには尺が足りないな。連続ドラマになるといいな。