それは1本の電話から始まった。
米国、コロラドスプリングズ。
中央防衛空軍基地。
「大佐、ホットラインにお電話です」
指令長官のハリー・シャウプ大佐の顔がこわばった。
ホットラインからの指令は絶対に服従する規則だ。
「用件は」
「それが・・・サンタクロースはどこに居るのか、と」
「大統領か?」
「いえ、どうやら子供のようです」
「……なるほど。それは重大事件だ」
彼は星条旗に忠誠を誓った軍人である。
勤務規定を忠実に守った。
その頃、
コロラドスプリングズの玩具店の店主が、
新聞広告を制作した会社に抗議した。
「これはウチの電話番号とは違うぞ。
どうしてくれるんだ?」
「サンタさんとお話ししよう!」
そこに、ホットラインの番号が書かれていた
よくある誤植ではある。
しかし、シャレにならない電話番号だった。
大佐の司令で、基地に緊張が走った。
米国航空宇宙局(NASA)に依頼し、
「防衛援護プログラム」と名づけられた
衛星システムのデータを取り寄せた。
地上にある無数のセンサーをチェック。
そして、ついに彼らは発見する。
北極点で出現し、北米大陸を
ものすごいスピードで飛行する謎の物体を。
1955年以来、彼らはその物体を
サンタクロースと信じて追跡している。
1957年に中央防衛空軍基地はカナダと連携して
北米防衛空軍基地(NORAD)となっても、
その任務は継続された。
そして彼らはいくつかの情報を突き止めた。
・その物体は12月24日に現われる。
・その物体は Santa, Dasher, Dancer,Prancer,
Vixen, Comet, Cupid, Donner, Blitzen ,
Rudolphの9個一組だ。
・つまり、サンタは
8頭のトナカイが引っ張っている。
・レーダーに反応する熱源は、Rudolphの鼻である。
・カナダ空軍のパイロットが、
雪原の中で手を振るサンタクロースを目視できた。
彼はスクランブル任務の報告書にこう付け加えた
「雪原の中で赤い服は目立つ」
ところで、なぜ、彼らは執拗に
サンタクロースを追跡するのだろう。
NORADの報道官は新聞記者の質問に、
以下のようにコメントしている。
「私たちの任務は、北米を飛来する
すべての未確認飛行物体を追跡することだ。
例の赤い彼も未確認飛行物体として処理し、
ファイルに記録される。
なぜかって?
彼は我々に飛行計画書を提出してくれないからさ」
笑顔を抑えつつ、しかめっ面で応えた彼のコメントは
記者たちの笑い声と拍手で受け入れられた。
クリスマスになると、NORADには
全米の子供たちから電話がかかってくる。
もちろん、彼らは国民からの質問には、
可能な限り真摯に回答しなくてはならない。
世界でもっとも平和な臨戦態勢が、今年も始まっている。
50年以上の歴史を持つサンタプロジェクト。
現在はインターネットで誰でもNORADの情報にアクセスできる。
北米航空宇宙防衛司令部