直木賞作家さんがEスポーツに気づいたようです
ミステリー作家東野圭吾氏の文庫最新刊。東野氏はウィンタースポーツのファンで『鳥人計画』というスキージャンプに関する作品を書いたこともある。ドラマ『ガリレオ』『白夜行』『流星の絆』、映画『容疑者xの献身』で有名です。だけど本作品は小説ではなく、小説風のエッセイと言っていい。飼い猫の夢吉が人間に変身する。それをいいことに、東野氏は夢吉を冬季オリンピック選手にしようとする。これが第一幕。選手の夢をあきらめ、トリノオリンピック観戦に出かける。これが第二幕。
東野氏の小説の緻密さと構成力が好きな僕としてはちょっと物足りない。もっともこれは小説仕立てのエッセイだから仕方ない。第一幕は日本のウィンタースポーツの現状のレポートで、雑学的な知識を得られる。第二幕は紀行文としてそれなりに楽しめる。ウィンタースポーツファンなら僕よりももっと楽しめるだろうと思う。
注目すべきは文庫版付録という短編小説だ。第三幕的な続編で、夢吉が主人公。舞台は2056年の某都市。まずビックリさせられることは、この時代、冬季オリンピックはないのだ。なぜなら、地球の温暖化が進み、人々が住むところには雪が降らなくなってしまったから。残った競技はプラスティックリンクのフィギュアスケートのみ。それも、プラスティックリンクなら夏の競技でいい、というわけで、すべての競技は夏に統合されてしまった。
そんな世界でも、スキーの回転競技、ノルディック、バイアスロン、ハーフパイプなどが行われている。ただし室内でシミュレーターで競技されていた。これですよこれ。地球温暖化が進むと、ウィンタースポーツはEスポーツにならざるを得ない。これはものすごく示唆に富んだ描写でありました。僕らが声高に主張しなくても、こういう形で始まるEスポーツってのはありそうです。温暖化は困るけど。