玉蜀黍
夕刻。
友人が息子さんを伴つて訪れた。大きく見事な玉蜀黍を頂く。咄嗟のことでお礼に渡すものもなく、あたふたしてひる間に帰つてしまわれた。その手にはまだ袋がいくつかぶら下がつており、故郷からの賜り物があと何軒かに振る舞われたやうだ。
それにしても見事な玉蜀黍である。山竹のように美しい青色の皮を剥くと、ぷりぷりした実がぎつしりとつひてゐる。少し甘ひ香りがして、このままかじつても良ささうな気がした。しかし、美味なるものはより美味にして頂く、これが大地の恵みへの礼儀であらう。
友人が息子さんを伴つて訪れた。大きく見事な玉蜀黍を頂く。咄嗟のことでお礼に渡すものもなく、あたふたしてひる間に帰つてしまわれた。その手にはまだ袋がいくつかぶら下がつており、故郷からの賜り物があと何軒かに振る舞われたやうだ。
それにしても見事な玉蜀黍である。山竹のように美しい青色の皮を剥くと、ぷりぷりした実がぎつしりとつひてゐる。少し甘ひ香りがして、このままかじつても良ささうな気がした。しかし、美味なるものはより美味にして頂く、これが大地の恵みへの礼儀であらう。
私は棚の奥から玉蜀黍用の耐熱皿を取り出した。これは亜米利加の知人からいただひた。プラスチツク製で、玉蜀黍用の窪みがふたつしつらえてある。そこに玉蜀黍をふたつ並べたが、見事な大きさのため型に入らなひ。そこで不本意ながらひとつずつ、ふたつに折って型に入れ、電子レンヂで五分温めた。
あつひ、あつひ、と独りごとを唱えつつ齧り付く。そのひと口ごとに甘い香りが舌を包む。美味也。私は夢中で顎を動かした。それを見た愚犬いんてるは我慢ならない様子で、俺にも寄越せとしつこくせがむ。見せびらかして食ふとは罪深ひことをした。僅かばかりに実の残つた軸をやると、犬は嬉しそうに銜へて走つていつた。奴の癖で、気に入つた獲物があると、どこかで隠れて食ふのだ。たいていは私の寝台の下であるが、私は知らないふりをしてゐる。
ところが翌日、散歩に連れ出したら、犬の糞に黄色ひ粒々が大量に混じつてゐた。消化できずにそのまま出てきたやうだ。なんだ、身にならぬなら遣らなくてもよかつたと思いつつ、糞を拾った。糞がクリスマスの電飾のように美しひことが可笑しかつたが、やつぱり糞は糞なので、そのまま公園の屑籠に放つた。
烏の野郎が見つけたら食うかもしれぬと思つた。
それほど美味さうな黄色をしてゐた。
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