すぎやまの日々

鉄道＆Ｅスポーツライターの日常とか。

知ラン権利

2006/03/05 Sun

『北の国から』というドラマを書いた倉本聡さんは、自身が住む富良野の人々を題材にしたエッセイ『北の人名録』を書いて、これも当時ベストセラーになりました。黒柳徹子さんの『窓際のトットちゃん』と同じくらいの時期だったかな。

倉本さんは次に、北の人名録の登場人物を織り交ぜたファンタジー小説『ニングル』を書きました。これも良い作品で、さんざん笑って最期に泣かせるタイプの話になっています。おお、そうだ、日本オリジナルのMMORPGとして、ニングルオンラインなんてどうでしょう？

『ニングル』は、人間とコロボックルのような森の妖精ニングルとのふれあいを通じて、人間の自然破壊への警鐘を描いていきますが、もうひとつのテーマとして、『知る権利』を濫用していいのか？　という問題を投げかけています。初めてテレビのワイドショーを見たニングルはそこにあふれるゴシップを見て嫌気がさし「俺たちには知ラン権利がある。人間にはないのか？」と問いかけます。

知ラン権利とは、知りたくない情報を拒否する権利。
タレントのファンにとって、そのタレントの熱愛騒動は知りたくない。その報道は"知ラン権利"を侵害している、けしからん！というわけです。

知ラン権利を行使する人は情報の受け手です。もちろん現代の法律にそんな権利はないわけで、情報を発信する側が知ラン権利に配慮する必要がある。交通事故の報道で知りたいのは、"原因"であって、遺族のプロフィールではないんです。原因は自分の運転の参考になるけど、遺族の話は井戸端会議のネタにしかならず、それはとっても失礼なことじゃありませんか。そんな情報は知りたくない。"知ラン権利"を侵害しています。知る権利を濫用してはいけません。

例えばディズニーランド。
「ディズニーランドの社長の日記」なんてものはないんです。いや、調べてないからアメリカにはあるのかもしれないけど、そこでは「今日のミッキーは動きがダレてた！」とか「新しいアトラクションを思いついた！」なんてことは書かれないはず。ましてや、ミッキーマウスの中の人の日記、なんてない。中の人はいないんだから。こういう舞台裏の情報は、ディズニーランドを楽しみたい人にとっては邪魔なだけです。だから、そんな情報は絶対に出さないし、ディズニーランドを楽しみたい人は、そんな情報が在ったとしてもアクセスしないだろう、と思うわけです。知る権利がある。しかし、それを濫用すると、知りたくない情報も拾ってしまう。情報の受け手も、知る権利にブレーキをかけないと、楽しんでいるものが楽しくなくなっちゃう。

AOGCの取材で感じたんですが、大手のMMORPGベンダーは自分たちがゲーム産業ではなくレジャー産業だと気づき始めたようです。だからGMのサポートが重要とか、ステイタイムなんて単語が出てくる。いままでゲームがお手本にしていたのはハリウッドだったんですが、MMORPGが目指すべきものはディズニーなんですね。で、居心地の良いレジャーランドを作るためには、遊びに来る人たちの"知ラン権利"にも配慮する必要がある。MMORPGにも同じことが言えそうな気がします。

今日、私の記事の読者さんからメールをもらって、そんなことを考えました。