ゴールドブレンド
ネスカフェ・ゴールドブレンドの四角いビンのキャップを外し、カップに粉を入れて湯を注ぐ。初めて彼女を部屋に呼んだ日は、わざわざスターバックスの豆を買った。ミルクシェーカーを使って、キャラメルシュガーで仕上げる。本物のカフェみたい、と喜んでくれた。あれから半年か。今日はちょっと手抜き過ぎだな。来週までに豆を買ってこよう。
「あ、思い出した」
「なに」
「ずいぶん前だけど、インスタントコーヒーが好きって女の子がいた」
「ふーん」
「私、ネスカフェのゴールドブレンドが好き。世界で一番美味いと思う、って」
「変わってるね」
「うん、でも俺、そのときは感動したんだよね」
「なんで」
「コーヒーってさ、インスタントよりレギュラーが美味いってコトになってるだろ」
「常識でしょう」
「でも、そんな風潮の中で、人前で、インスタントが好きって言える。それはさ、自分の価値観をハッキリ主張できるってことだよな」
「うーん……」
「実は俺もインスタントが好きなんだよね。酸味がなくてあっさりして」
「酸味の少ない豆だってあるわ」
「そうなんだけど、でも彼女の、ゴールドブレンドが好き、っていうのは、子供の頃から親しんだ、自分に刷り込まれた味なんだよね。お袋の味、みたいなさ」
「そうかもね……」
「言われてみれば、俺もゴールドブレンドで育ってきたんだ」
「育っちゃったんだ、ゴールドで」
「そう、それでゴールドブレンドの女の子が気になって」
「好きになっちゃったわけ」
「うーん、好きっていうか。いい子だな、って思った」
ふーん、と言いながら、彼女はコーヒーをひとくち含んだ。そういえば懐かしい感じよね。と言いながら、四角いビンを指さす。
「あ、だからゴールドブレンドなのね」
「違いがわかる男。自分に素直にゴールドブレンド」
彼女は両手でカップを包み、ゆっくりとコーヒーを飲んだ。
「私もおいしいと思うな。ゴールドブレンド」
「あっ」
「え」
「その中身、詰め替え用のマキシム……」
「……」
COMMENTS
きゃーっっ!
サムにボコられちゃう!
って、違うから!