シリウスの道
広告代理店の営業職、辰村。第一線で活躍する彼の心の奥に、封印しておきたい過去があった。それは幼なじみの少女を守るために、親友と企てた事件だった。それから25年、秘密にしていた過去を暴く脅迫状が届く。それも、クライアントのキーマンの元に……。
少年の世代が読めば、こんなカッコイイビジネスマンになりたい、と思うだろうし、大人になって読むとこんな少年時代が羨ましいと思う。辰村ほどではなくても、大人は大なり小なり、少年時代の痛烈な経験を引きずっている。その事実にどう向き合うか。辰村の行動はとてもカッコイイ。しかし、男なら辰村の行動がわかる。彼が少年時代に持っていて、今は失われてしまった何かを探している。それに向き合い、決着をつけるために。
物語はもうひとつ。総額18億円のビッグプロジェクトに挑むチームワークの躍動感と、それを脅かす険悪な存在との戦いを描く。その筋書きは、こんな仕事ができたらいいな、と思うほどカッコイイ。でも実際はこんなにうまくいかないな。現実の世界では悪いやつほどのさばるわけだし。裏を返せば、その部分をきちんとしてくれるから痛快な物語になっている。
文章のテンポがよく、一気に読めた。むしろ読書の中断が難しい。ちなみに著者は電通の社員でした。自分が勤務する業界について書く、という行為はもっとも取材しやすく、かつルール違反とも言える。しかし彼は2002年に退職した後に本作を発表した。昨年、癌の発病を告白した藤原氏。ぜひ病気に勝って、その経験を医療ハードボイルド作品に仕立ててほしいと思う。
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