すぎやまの日々

鉄道&Eスポーツライターの日常とか。

Railways


一流メーカーの中枢で出世街道を歩む主人公。出世を約束され、リストラ担当として同期入社の親友が所管する工場を閉鎖。クールでドライな性格に妻や娘とも疎遠になりつつあった。そんな時、故郷の母が病に倒れる。実家に帰った男を追うように、さらなる悲報が届く。仕事中心の人生に立ち止まり「俺は夢に向かって生きていたか」と自問する主人公。そして彼は、少年の頃に憧れた「電車の運転士」に転職を決意した……。


お行儀の良い映画、という感想がピッタリかもしれません。いやな思いをするシーンもないし、ハラハラドキドキな展開もない。ただひたすら、ドキュメンタリーのように主人公の転機を追う展開でした。良い映画なんだけど、ちょっと足りない気もするんだな。

もしこの題材でハリウッドが作ったら。
主人公は親友にもっと冷酷な仕打ちを与え、家族からは突き放され、優しい母親からも見離されたことでしょう。転職した後も苦労の連続。過酷で厳しい訓練にエリートのプライドはズタズタにされ、しかし元の会社からは突き放されて戻るべき場所もなく、悲嘆にくれつつも夢へ向かって黙々と努力するしかない。しかし、その姿に心打たれた娘と妻が、やがて主人公の最大の理解者として応援する。ついに念願かなって列車を走らせる主人公は、病院を通過する際に、最期を迎える母へ向かって長い汽笛を響かせる……END。という感じになったと思う。こういう展開だと、ラストに主人公が妻へ投げかける台詞の意味が重くなって、ここでみんな号泣できたはずなんだ。人生と電車をかけた、とってもいい言葉なんですよ。
 
しかし、本作品は喜怒哀楽を抑えたつくりでした。制作は「ALLWAYS」や「踊る大走査線」「ハッピーフライト」「海猿」などで注目を浴びる制作集団ROBOTです。彼らはもちろん定番のエンターテイメントを作れたはず。たぶん、わざと感情を抑えたドキュメンタリーに仕上げた、と推察します。その意図は何だろう。鉄道員の訓練が過酷過ぎたら、協力してくれた京王電鉄のイメージが悪くなるし……という政治的な判断もあったかもしれないな。

でも、おそらくはエンターテイメント性よりもリアリティを重視したんだろうと思います。実際にクールすぎる男が田舎の電車の運転士になることはないし、鉄道の訓練もそんなに過酷ではないかもしれない。年齢や体力の問題以外では、スムーズにことが運ぶんでしょう。盛り上げようがない。実はどこにでもありそうな話なんですね。タイミングよく母が倒れたり親友に不幸があったりするだけでも、そんなことはめったになくて、ギリギリの作り話だったと思う。

そういう風に描くことで、笑ったり泣いたりという面白さではなく、共感を得ようとしているんだな、と思いました。仕事中心で家族も、そして自分すら省みない。そんな男たちに共感してほしかった。淡々と物語を見せることで、彼らの心の奥にある「子供の頃の夢」を掘り起こそうとした。

もうひとつの理由は、制作者が撮りたかった対象は人間ではなく電車だったから(笑)。この映画は、電車や駅をものすごく上手に撮ってます。もうね、鉄道ファンなら、冒頭の電車の出庫シーンで泣ける(笑)。まるでSFアニメのように光が並んでいく様子。その光線ができる理由は、田舎の埃っぽい電車だから。なんかもう「清貧の美しさ」だ。新幹線も、サンライズ出雲も、一畑電鉄も、ツボを押さえたカットになってる。この映画にとって、人間はみな脇役だと思ってもいいかもしれない。

なにしろ、当初この映画は「BATADEN」というタイトルで、地元出身の映画監督がカンパを集めて作ろうとしたような話だったんです。それをなぜか大手のROBOTと松竹が手を差し伸べて、シナリオも俳優も一流のスタッフを起用して、全国ロードショー作品になっちゃった。奇跡の作品といっていいかもしれない。シナリオに派手さがない理由は、あとからプロジェクトに参加した人々が、当初の監督の構想を尊重したからでしょう。

それゆえにお行儀の良い映画。感動を盛り上げるための「わざといやな思いをさせる」という手法はありません。だからといって退屈でもない。安心して観られます。島根の風景、一畑電鉄のノンビリとした雰囲気。これらを広めるにもいい映画。とっとと地上波で流して、もっとたくさんの人に観てもらったらいいと思います。

あと、この物語の後味を爽快にしてくれた功績は、主人公の娘役の本仮屋ユイカさん。前から可愛い子だな、と思っていたけど、『相棒 劇場版』みたいに、地味で暗い役が多かった。でも今回は活き活きとしてました。若い人たちは彼女に感情移入して観るんでしょうね。とても希望のあるラストになってます。本仮屋ユイカさんに助演女優賞あげたい。きっといつか大きな賞を取りそうな気がします。あ、主演男優賞はデハニで(笑)。
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