北方謙三の三国志
北方謙三さんの三国志を読了しました。面白かった。僕は歴史モノが苦手ですが、これをきっかけに歴史小説も読もうと思います。
三国志をテーマとした作品はいろいろあります。僕が過去に読破した三国志は横山光輝のマンガでした。これは吉川英治の小説のコミック化です。三国志というと横山版をイメージしていましたから、劉備は徳の人でヒーロー、曹操は戦好きで狡賢い敵、孫堅の印象はなんとなく薄い、そんな感じでした。劉備を善、曹操を悪とする勧善懲悪な印象もあります。若い頃に読んだので人物を読みきれていないということもあるでしょうが。
北方版も劉備を中心に描いていますが、必ずしも劉備が善、曹操が悪ではありません。劉備が"徳の人"ではなく、実はキレやすく残酷な一面を持っている人物になっています。張飛や関羽がもっと派手に暴れて、劉備="徳の人"のイメージを作っているわけです。曹操は幼い頃から宦官の家計の子として蔑まれていたというコンプレックスを持っています。それが大望へと向かう原動力なんですね。董卓との戦いで諸侯が動かないことに怒り、「こんな弱腰なやつらを蹴散らして自分が天下をとってやる」と動き始めます。孫堅は、「あんなやつに天下を取らせたら大変なことになる」と立ち上がります。三国志は当初、曹操と孫堅の戦いでした。天下二分、二国志だったわけです。そこに最弱の陣営の劉備が割り込み、天下三分に持ち込んでしまう。これは奇跡です。だから劉備視点で書くとサクセスストーリーとなって面白くなる。
こうして、誰が善か悪かを超越した「それぞれの大儀、それぞれの戦い」が描かれていきます。どの人物も魅力的で活き活きとしています。諸葛亮孔明なんて、横山版では座って扇いでいるだけですが、北方版では若くて剣を持って前線で戦います。そして「あんたはそんなことしなくていい」って回りから怒られちゃう。周瑜と孫策が妻となる姉妹を攫いに行くところなど、まるで青春ドラマのようです。そういう若さと晩年の老いもきちんと書き分けるところがすごい。
エンターテイメント性を重視しているため、事実とは異なる部分もあります。たとえば、最強の武将の呂布は、史実によると董卓の侍女と密通していたために反逆します。しかし北方版では年上の妻をこよなく愛する夫です。董卓に妻を侮辱されたことで怒りの矛先を向けるのです。女性が魅力的に描かれていることも北方版の特徴でしょう。呂布の死ぬ様子もカッコいい。史実は縛り首ですがこっちのほうがいい。
挿話のイチバンの名場面は張飛の死。史実では厳しさゆえに部下に殺されますが、北方版では呉のスパイによって暗殺されてしまいます。このとき張飛は、相打ちになる暗殺者を抱きしめて死んでいくんですね。張飛が死ぬところ、悔しさよりも張飛の優しさに泣けます。
読み進むにつれて、北方さんはこの話をどんな風に終らせるつもりなんだろうと思います。横山版では劉、曹、孫の没落を描き、盛者必衰の真理を示して終わります。戦いはむなしいものなんだ、と。では北方版はどうか。これがねぇ。いいんですよ。書きませんけどね。時期としては孔明が死ぬところで終るんですが「あ、そっちにもってくんだ」というね。意外な場面転換で、平和というか、明るい終わり方です。完全な創作でいいから、この終わりの場面の続編が読みたい。そんな感想を持ちました。
三国志は、北方ハードボイルドのエッセンスがたっぷり入っていました。喪失感と、男の体の中で暴れまわる何か。それは、もしかしたら現代を扱った小説では表現できないことかもしれません。男たちが魅力的だった時代だから描けることがある。それが時代小説の面白さかもしれないな、と思いました。
COMMENTS
北方版もよみたくなりました
漫画で好きなシーンは、チョウヒが部下に酒をくばるシーン(9巻)
感想をブログに書きましたので、読んでください。
亀さんこんにちは。私も昨夜、読本と英雄を読みました。ゲームやろうかな・・・・・・